Copyright (C) Takashi Funatsu.   All rights reserved.
First drafted 2003.      Last Revised 2005/04/15

船津高志 Online

生体分子システムの研究とバイオナノテクノロジー

21世紀は生物物理学の世紀です。

 20世紀は古典物理学の様々な矛盾を解決しようという根元的な問から量子力学が生まれ、「原子とは何か、物質とは何か」を理解しようとして物理学と化学が融合しました。また、様々な分野で物理学は大きく発展し、素粒子から宇宙まで何でも物理学で分かってしまうような勢いです。それでは、物理学にとって未開拓な分野はどこなのでしょうか?それは"生命"です。私たちは、生物を物理学で理解することにより"生命とは何か?"という問いに答えようとしています。

 生物を理解するためには、いろいろな階層で研究する必要があります。一番下の階層は蛋白質やDNAといった生体分子が働いている階層です。それらが集まって、生体超分子、細胞、器官などが作られ、さらには個体、社会、生態系が構成されています。私たちは、最小機能単位である「生体分子」の階層と、生命としての機能が初めて発現する「細胞」の階層に焦点をあて、生体分子がどのようなメカニズムで機能しているのか?集合してどのようにシステムを構築しているのか?を明らかにしたいと考えています。

 具体的には、1個の生体分子(大きさにして数nm; 1nm=10-9m)に蛍光色素を結合させ、超高感度ビデオカメラを取り付けた蛍光顕微鏡で観察します。生体分子は、たった1分子でも機能を発揮できる分子機械です。例えば、神経細胞の中で物質の輸送を担っているキネシンと呼ばれるモーター蛋白質は、ATP加水分解による化学エネルギーを運動という機械的なエネルギーに転換して動いています。この分子モーターは微小管と呼ばれるレール蛋白質の上を2つの足で8nmのステップで運動します。人類は、このような分子機械を作る技術を現時点では持っていませんが、生物分子機械の動作メカニズムを研究することにより、近い将来実現したいと考えています。一方、多種・多様の生物分子機械が自己集合することにより、複雑なシステムが作られます。このシステムも人工のものと大いに異なっています。「生命」とは、これらの複雑なシステムの営みと言っても良いでしょう。私たちは、こうした生物システムを研究することにより、生命の謎に迫ります。